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認知への働きかけ
3-1)強迫性障害での認知への働きかけ

強迫性障害で、認知療法の技法が有効だと考えられるのは、ガイドラインによると、主に次のようなケースです。(参考[1]p31)

・考え方が強固で、それにとらわれている。(危険に対する誤った評価、過大な自己責任、病的な疑い深さなど)
・考え方に偏りがあり、自由な考え方ができない。
など・・

・ガイドライン[1]で想定しているのは、曝露反応妨害に、認知療法的な技法を追加するような場合です。

3-2)認知療法(CT)のあらまし

認知行動療法のページ>図2の認知・思考-行動-感情-身体の基本モデルを見てください。
認知療法では、
1)何か出来事(トリガー)に出会ったとき、
2)認知・思考で一旦とらえてから、
3)感情・行動が生じる
と考えます。(参考[2])

ただし、認知・思考のくせは、自動的に行われているので、自分では気づきにくいです。

自動思考・・・自然に瞬間的に、意識に思い浮かぶ思考。
侵入思考は、自動思考と似た言葉だが、強迫でよく使われ、意思とは無関係に生じる侵入的な思考。)

スキーマ・・・自動思考より深い段階の、自動的な考え方のくせ。これまでの人生で築きあげてきた物の見方、考え方のパターンです。
例えば、少しでもミスがあると、すべてが台無しになると思いこんだり、他の人はそれ程感じない状況でも、悪い方にとらえてしまう、自己中心的に考えてしまう・・・といった具合です。

そこで、認知療法では、このような考え方の様子を、治療者と一緒に検証していきます。
その方法は、およそ次のようです。参考[5]

1)問題に気づく。
2)問題・症状をはっきりさせる。---アセスメント
自分の状況を観察して、記録していく。---セルフモニタリング
3)それを整理して、調べる。---問題の原因となっている思考パターンに気づく
4)気づいたパターンが、どのようにしたら現実に適合しやすく、バランスがよくなるかを考える。
5) その結果を実際の行動に反映させて、効果を確認する。
---強迫性障害の場合、この段階で、曝露反応妨害法のような行動療法の技法につなげます。

・認知療法は、うつ病の治療として開発され、抑うつ、ストレス、対人関係などの改善で、よく用いられます。技法としては、認知再構成法、問題解決法などがあります。
・しかし、標準的な曝露反応妨害に、認知療法的なアプローチを加えても、治療成績は向上しないそうです。[7]p54

3-3)誤った信念・認知のひずみ
考え方(認知)のくせには、いくつかのパターンがあります。

1)誤った信念
強迫性障害の場合、誤った信念というパターンがあります。[4]
OCCWGという国際的な研究グループによって、今のところ、次の6つの領域に分類されています。[8]

思考:
1.思考の重要性・・・侵入思考に、過剰な意味づけ、重要性を加えた思い込み。
思考と現実の混同/思考・感情の現実化・・・感じたこと、実際にそうであるような感じがする。思ったことが、現実に起こってしまうように感じる。

2.思考のコントロール・・・自分の考えをコントロールしなければならない。コントロールできるものだという思い込み。

責任と脅威評価
3. 過大な自己責任・・・通常の社会的な責任を超えて、自分のせいであるように意識してしまう。

4. 危険の過大視、過剰な見積もり・・・危害の起こりやすさや、深刻さを過剰に考える。安全への対策が、合理的ではなく、やり過ぎ。

完全主義と確実さ
5.不確実さに耐えられない
・・・確実であること、予想外のことに耐えられないという信念。

6.完璧主義・・・少しのミスも、あってはならない。あるととらわれてしまう。

疑いへの執着・・・病的な疑い深さ。もしかしたら***がという疑いにとらわれる。

2)認知のひずみ
認知療法で考えられるパターンです。[5](本によって、いろいろな訳語がある)

1. 根拠のない決め付け・結論の飛躍・・・証拠が十分でないのに、思いつきを信じ込む。
例:しばらく友人から連絡がないだけで嫌われたと思い込む。

2.過度の一般化・・・ごくわずかな事実を取り上げ、全部そうだと決めこんでいる。
例: 血液が苦手だと、それに似た色は全部そうかもしれないと思う。

3.選択的な抽出(心にフィルター)、部分的焦点付け・・・ 些細な欠点だけにとらわれて、他の事柄を全て無視してしまう。

4.白黒思考(すべてかゼロか、all or nothing)・・・白と黒の中間の判断ができず、どちらかに極端な判断に偏る。

5.過大評価と過小評価、誇張と矮小化・・・自分の短所や失敗を過大に考え,逆に長所や成功したことを過小評価する。

6. ねばならない・すべき・・・それ程の必要はないのに 「…すべきである」「…しなければならない」と考える。

7.マイナス化思考・・・単にネガティブになるだけでなく、なんでもないことや、成果、成功に対しても割り引いて評価してしまったり、良い出来事を無視したり、悪い出来事にすり替えてしまう。

8.自己関連付け・・・他の要因が関連していても、自分がその原因だと考える。

9. 情緒的関連付け・・・そのときの自分の感情にもとづいて、現実を判断をしてしまう。

10. レッテル貼りと誤ったレッテル貼り・・・自分にネガティブなレッテルを貼ってしまうこと。
例: 「一つまちがえた」と考える代わりに「自分は落伍者だ」と考える。

ただし、伊藤先生の本[3]p114によると、そのひずみを矯正するのではなく、「さらに別の思考を足していって認知の幅が広がったり、認知的な柔軟性が高まれば、結果的に自動思考の確信度は低まるわけで、それでよいのではないかと思います。」の方がいいそうです。
3-4)思考の検証

このような問題に対する思考のパターンに気づくために、本人(自分)に質問していきます。そのようにして、別の考え方、見方はないかを調べるます。
治療者との会話や、ツールと呼ばれる専門の用紙を使うことが多いです。詳しくは、webページ[2]や本[5]を読んでください。

[1]コラム法(参考[5])
代表的な方法です。コラムは表の列(行の場合もあり)と言う意味です。
7つのコラム法では、状況、気分、自動思考、根拠、反証、適応的変化、心の変化という7項目の表を使います。

1)状況・・・どのような状況で何が起こったのか。(OCDの場合、トリガーに出会った状況)
2)気分・・・不安、恥ずかしい、怖い、イライラした、あせり・・というような感情。それがSUDのように、最高を100、最低を0とした場合、何点かも書きます。
3)自動思考・・・その瞬間に考えていたこと。(OCDの場合、強迫観念)
4)根拠・・・自動思考を裏付ける事実。(事実だけを書いて、推測や感じたことを混ぜない)
5)反証・・・自動思考とは、矛盾する事実。(自動思考とは、あえて反対の見方をします)
6)適応的変化・・・4)5)を比べて、自動思考に替わる、現実に適応しやすい考えを書く。
7)心の変化・・・6)の見方にしたことで、2)の感情が、何点に変わったかを書きます。

[2]その他の質問(参考[6]他)
自動思考を検証するための質問は、コラム法の根拠と反証の他にもあります。
・自分にとって、それはどのような意味を持つのか?
・他人にとって、それはどのような意味を持つのか?
・自動思考を信じることの長所は?
・自動思考を信じることの短所は?
・他の人なら、この状況なら、どのようなことをするだろうか?
・以前(病気になる前)は、それに対し、どのようにしていたか?
・もし友人なら、自分になって言ってあげたいか?

[3]その他の気づき
補足>気づき>2-2)考えの根拠は? に書いてあります。

3-5)参考

[1]John S. March (著), Daniel Carpenter (著), Allen Frances (著), David A. Kahn (著), 大野 裕 (翻訳) 「エキスパートコンセンサスガイドライン 強迫性障害(OCD)の治療」ライフサイエンス
[2]リンク
認知行動療法・認知療法の道具箱(ナット&ボルト)
[3]伊藤絵美「認知療法・認知行動療法カウンセリング」
[4]Bruce M.Hyman,Ph.D. Cherry Pedrick,RN (2005) The OCD Workbook second edition
[5]大野裕「こころが晴れるノート」創元社(2003)
[6]伊藤絵美「認知療法・認知行動療法面接の実際」星和書店2006
[7]
原田誠一編「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版(2006)
[8]代田剛嗣「認知行動理論における強迫性障害の信念について」2006

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