家族の対応・ひきこもり

家族と患者との関係には、次のパターンが考えられます。

1)本人が子ども(小児~青年期)であり、家族は親、兄弟、祖父母
2)本人が親であり、家族が子どもの場合
3)夫婦
4)その他

そして、家族と同居しているか、生活をどの程度共にしているかも判断のポイントとなります。
これらの条件によって、次の内容は当てはまる場合と、そうでない場合があります。それをご理解の上、読んでください。



1.家族の巻き込まれ

本人がOCDの症状によって気になることに対し、家族が

・ 替わりに点検してあげる
・ 拭いてあげたり、片付けてあげる
・ 「大丈夫?」って聞かれたら、「大丈夫だよ」と答えてしまう

などの行為は、本人に代わって、強迫行為を手伝うことになります。

「安心したいために、「充分に洗った」「汚染された物には触っていない」と、誰かに言ってもらっていませんか?そんなことをしてもらっても、症状を悪化させるだけです。ぜひやめてください。」・・・中略・・・そのような質問するたびに、家族には、「そんな質問には答えないことにしているんだ」と応じてもらってください。[4]p247-248

本人には、一時的な安心感があっても、自分だけで行う以上に強迫行為ができてしまうので、長期的には、よけい強迫症状の悪循環が強化されます。図9
そして、このような手伝いが習慣となると、はずすのは難しくなります。

「OCDに苦しんでいる人と一緒に生活をするときに従うべきただ一つのもっとも重要なルールは、「本人に代わって儀式を行うことをやらないことである。--別の言葉でいえば、「手伝わないことが援助すること」である。[5]p330
家族が「してあげること(accomodation)」が多いと、本人の強迫症状が悪化しがちであるという研究もあります。[15]

ただし、本人にとっては、いきなり家族が手伝いを止めたり、意に反する行為をしたら、非常に反感を持ったり、よけい興奮したり、症状にのめり込むかもしれません。本人にとっては、今まであることが当然だと思ってきたはしごを急に外されるような、不本意で、「ないと困る」感覚があります。

1-1)このようなときの対応:

①家族がOCDの基本的なしくみに対して理解する。そして、本人にも、図9のような悪循環があり、このまま続けていると、かえって良くないという理屈を理解してもらうよう努め、同意を得ます。cf[3]

これで本人が理解できればいいのですが、そうは行かず、かえってあつれきを生じる場合も多いです。そのような場合、いきなりこのようなことを実行するのではなく、あらかじめ言葉で宣言だけでもしてから行うというのはどうでしょうか? 悪循環

1-2)生活で別にできるところは別にする:

・汚染恐怖の患者さんは、他の人には理不尽でも、この範囲内なら安全という聖域を考えていることが多いです。
その聖域に家族が干渉すると、本人にとっては、また強迫行為を始めからやり直さなくてはならないと感じたり、苦痛を感じます。
ですので、この部屋のこの部分だけに物をおくとか、家族がさわる場所に気になる物は置かないとかできると、お互いのストレスが減ることがあります。
・強迫行為の最中、家族にジロジロ見られると、よけい緊張して症状が強くなる人がいます。また、家族に付いていてもらったり、結果を確かめてもらうことで安心する人がいます。安心といっても、それは本人に代わって、家族から安全の保障を得ていることもあるので、本当は本人によくない場合も多いです。

1-3) 上記を本人が理解できない、受け付けない場合:

①OCDの患者さんは、物事の急な変化に抵抗がある人が多いので、理解するにも時間がかかることがあります。そこを家族が理解してください。

②これは、本人と家族の双方があって、成り立つ関係です。家族の人の心理はどうであったでしょう?自己犠牲していなかったでしょうか?主体性のある行動であったでしょうか?独りよがではなかったでしょうか?その一因として、次が考えられます。


2.家族への依存

・タフラブ・・・家族が何か「してあげよう」としたり、説教すると、かえってうまくいきません。それより家族が見放した方が、本人が自分で何とかする気になります。これは、アルコール依存の当事者の間から広まった考えです。日本では、本[16]に書かれています。

共依存
・・・家族の機能が健全ではなく、相手にお互い過剰に依存した関係になり、その関係に過干渉、とらわれている状態です。 元は、虐待や依存症の人がいる家族の中で、このような共依存の状況になることがあり、使われるようになった言葉です。[6]
子どもが成人してもその関係が続いていて切り離せない場合、アダルト・チルドレン(AC)とも呼ばれます。本人は、安全感と信頼感が築きにくく、自己を否定的な感情に悩まされがちです。([1]、注:アダルト・チルドレンは、医学用語ではなく、専門家でも議論があります。)

・家族のような小集団では、元々心理的な役割分担が生じがちです。誰か一人が、世話に熱心になれば、他の家族の中には、そのことから遠ざかる人も出ます。例えば、母親が家族を何とかしようと思えど、父親は、そうではなく問題にはあまり関わりたがらないというパターンです。
ACには、いくつかのパターンがあるのですが、例えば次のようなものもあります。
リトル・ナース・・・長女に多く、自己犠牲してまで、家族を守り、世話する。

イネイブラー・・・依存症で使われる言葉で、依存を可能にさせている人です。本人に代わって、世話を焼いたり、お金を出してあげたりしてしまいます。

お金・・・強迫の症状のために、洗剤、トイレットペーパー、除菌用具などをものすごく使ってしまう場合、溜め込みが症状の人の場合、ろくに使わないのに新たな買い物をしてしまう場合、本人のお金ではなく、家族が出していることが多いです。(例外もあって、家賃収入、生活保護の例もありました。)そのような場合、本人のためと思って出した費用が、症状にとっては、火に油をくべているようなものになってしまいます。
また、専業主婦、ひきこもり、子どもなど、直接収入を得ていない場合、その状況が安定してしまうと、本人の改善の意欲が乏しくなってしまうことがあります。そのままでいても、食べていくには困らないためです。

・家族関係というのは、多かれ少なかれ、理不尽な面もあるのが普通ですが、自己犠牲も限度問題です。

家族は、まず自分の心身の安全・健康を最優先にして、確保します。

その上で、家族ともいえど、お互い独立した人間として見て、少し他人行儀になってはどうでしょうか。
例えば、朝会ったら「おはよう」と挨拶したり、何かしてもらったら「ありがとう」と言う。ただ、他人のように、それ以上は、あまり干渉しない。

そして、家族もできないことは、できないと言いましょう。
できれば家族も、自分の時間を持てると理想的です。趣味でもいいですが、パートに出てみるとか、好きなだけ寝るとか、本人を置いて親だけで旅行に行くという夢をもつこともいいかもしれません(すぐには実現できないかもしれませんが)。
家族も自分の人生を大事にしてください。また、家族の楽しみへの欲望は、本人にも伝わるそうです。[8]
・これは、家族の誰かがこの問題から趣味に逃げるためではありません。共依存の逆で、お互いに成人として、自律した関係を築くために必要なことです。

このような場合、自分だけでは、その立場が判断するのが難しいことも多いので、できれば専門家か、そうでなくとも信頼できる大人に相談するといいと思います。家族だけでは、なかなか関係が変わっていかないことが多いです。



3.本人が受診したがらない場合

・ 受診したとしても、すんなり治るとは限りません。OCDが専門ではない精神科の一般医に受診した場合、せっかく勇気を出して受診して、効果がある場合と、そうでない場合とがあるのが現状です。いずれにせよ、受診すれば100%うまく行くとは考えない方がいいです。ですので、身体の病気での受診と違い、精神科では本人が敬遠する気持ちも無理ない面もあります。

・しかし、改善のためには、受診することが大事です。どこの病院であれ、本人が受診する気になったということは、病気を受け入れ、改善の意欲が出てきたということで、とても意義があります。小学生くらいですと、いつのまにか改善する例もあるのですが、大人であったり、症状が何年も長引いていれば、そういうことはありません。

受診するかしないかなどという問題では、両価性といって、本人の心の中で、いい面と悪い面とがあります
そこをうまく考えて行くことが、動機付けのポイントです。
受診する=100%いい案だと思い、その主張を押し付けようとすると、本人がかえって抵抗する場合があります。
精神科の病気は、本人の意に反して強制的に受診させても、いい結果が得られるとは限りません。

そこで、認知療法や動機付け面接では、このようないい面と悪い面の両方を考える手法があります。
経理や家計で収支のバランスを比べるように、表などを使って書き出してみます。

また、リンク[9]の家族向けの記事では、本人が受診を回避する理由として、次の2つを上げています。
1.恐怖・・・回避と強迫をなくすというまさにその考え方が、OCD患者を圧倒してしまいかねない。
2.誘因・・・行動をして得らる可能性のある好ましいもの。つまり、仕事をすればお金が得られる。受診すれば、症状が改善されて生活が楽になるというものが、それに伴う苦痛を乗り越える以上に十分に感じられるとよい。

そのためにも、家族としては、できればOCDに関し、信頼できる情報が集められるといいと思います。

・元々OCDは、受診までに期間がかかることが多い病気です。一般的には、2~7年程度のことが多いそうです。参考[1][2]

相談先:
1)医療機関・精神科・・・ただし、本人が受診せず、家族のみが相談した場合、診療報酬がつかないため、医師としては十分な相談に応じられないことが多いです。
2)保健所、精神保健福祉センター、市区町の精神保健福祉相談・・・地域によって異なりますが、医師、保健師、精神保健福祉士などが対応してくれます。ひきこもりも相談対象となります。
3) 発達障害者支援センター・・・発達障害をお持ちの場合。
(参照:精神科全般>3.相談先




4.ひきこもり

OCDの場合、家族と本人の問題は、病気の原因探しではなく、あくまで適切な治療に抵抗がある場合への対処法として、読んでください。
家族同士で責めあっても、解決にはならないことが多いと思います。 この項は、ひきこもり向けの本[7][8]を参考にました。
[7]は、新潟県にあるおそらく日本で唯一のひきこもり外来で、そこを訪れた125名のうち、8割以上に精神疾患(軽微も含め)が見られ、OCDは7%であったそうです。また、2000年の厚生省のガイドライン付録の実態調査では、3293名中35.7%が精神科の既往歴があり、そのうち神経症・ストレス関連障害は16.6%であったそうです。また、問題行動として、17.9%に強迫的な行為があったそうです。[13]

ひきこもり外来で実践しているのが、依存症の社会復帰プログラムで用いられている手法をひきこもりに応用した「親の10ステップ、若者の10ステップ」です。([10]親の会HP↓にも掲載されています。) ただし、OCDのような精神症状が見られる場合、素人判断はよくなく、専門家への早めの相談が理想です。そのため、[7][8]とは順番や内容を変更しました。

注)子どもの場合:
この項目は、成人のひきこもりを主に想定しています。子どもの場合、年齢が低いほど、保護されても当然です。また、いじめ、性被害などを抱えていて、言い出せない人も私の相談経験ではありました。いずれにせよ、本人が心を開いてくれそうな専門家につなげられるといいと思います。
また、患者が親でひきもりの場合、しかも子どもが親の強迫行為に巻き込まれていると、親の同意なく行動することは難しいこともあります。しかし、放置することが、本当に親のためになるとも限りません。保健所か医療機関、または身近な信頼できそうな親戚でもいいので、大人に相談してください。

家族のステップ:

・当事者本人は、わかっているのに、動けないことが多い。そこで、家族から、まず考え方を振り返り、動いてみます。 ステップ1:今までのやり方は無力であった事実を認める。本人、親のできることの限界を自覚する。[7]
家族が「一番いいたいこと」(受診してほしい、社会復帰してほしい)を禁欲する[8]
家族が「どうすれば本人を、早く確実に社会参加させるか」にばかり焦点を当て過ぎると、うまくいかない。「家から出ていけ」というのも本人には、想定できる考え。[8]
・本人にも、そういたい気持ちがあっても、できない要求を言っても反発を招くだけ。本人にとっても、家族にとっても、「これならできそうだ」「今既にやれていること」「少しの変化から試みる」というようなものを探す。
・家族も援助者も、結果を急がない。[13]p21

ステップ2:家族の精神の専門家への相談

・今まで精神科の受診経験がない場合、素人判断で**病と決めつけずに、医師、心理士などの専門家に状況を話し、診断はできなくても、相談して情報を得ます。
・過去に何度か受診したことがある場合、それ以上のOCDの専門家を見つける必要があります。地域で見つからない場合、Skypeなどインターネットの通信を用いた相談を用いているところがあります。参考:リスト)

ステップ3:親ができるうる考え方の変化のポイント

1)共依存関係(参考:↑)
母親:過保護、過干渉なところはありませんか?
父親:家のことに関わらなさすぎ、もしくは過剰が圧力が過剰なところはありませんか?
ただし、このような状況になった原因は、本人、家族だけではなく、社会としてこのような問題への対応が未発達な面も大きいですし、お互いに責めあわないでください。 2)家族の価値観と思いこみ
親子で、価値観が似ていることが多い。社会的立場にこだわり過ぎ、世間体を気にして、人並みを重視する。親も本人も、自分が被害者だと言うことがある。しかし、その意見はすれ違う。[8]これはOCDでも、そういうことが多いです。
しかし、そのような価値観や思い込みは、現実の社会の中で、うまくこなれて取捨選択されて、現実的になり、精神的にも安定してくるものです。しかし、実務の経験がないので自信が育ちません。また、思いこみと自尊心の両立を保つために、その反動で不安とプライドが大きくなりがちです。
でも、OCD患者でも社会経験のあまりない人は、野心と理想は青年の段階で止まったままの人が多いです。親は、こうなってしまった以上、受診してくれればと思いつつ、どこかで人生の落後者的な見方をしてはいないでしょうか? 3)緊張を高めてしまう家族のパターン[13]p23
緊張を高めても、本人の反発を強めかねません。そのようなやり取りのパターンを知り、避けます。ただ、これは、家族だけでは、客観的にわかりにくいことも多いでしょうから、できれば家族の心理を判断できる専門家に関わっていただくと理想的です。ひきこもりや昼夜逆転は、本人がそのような緊張回避するための行動である場合もあります。[13]p50

4) 紙やノートに書いてみる
・考えていることをまとめてもいいです。cf認知行動療法の外在化
・また、子どもの出来事と日付を、簡単に日記のように記録してもいいです。cf認知行動療法のセルフモニタリング

ステップ4:家族に会話を持ち込む[8]

日常の挨拶からでもいいです。
親が、強迫観念の対象になっていたり、家族と話す=説教をされるというパターンにはまっていると、それもすぐには難しいことがあるでしょう。でも、最初は挨拶しても、それ以上は言わない、本人が挨拶しなくても「せっかくこっちから挨拶したのになんだ!」などと感情を出さないでください。
それでも、本人を密室に追い込むよりもましです。とはいえ、逆に大人になって、親子べったりなのもダメです。

ステップ5:親(夫婦揃って)が、他人の支援を求めたり、患者会など参加する意義を見つける。
OCD専門の会がなければ、ひきこもりの会でもよい。
まず、家から一歩出て他者に会うこと、これが大切。そして、親がまず率先して、プライドや世間体を捨てて、勇気を出てみることを実行します。それを、子どもに示します。
患者会では、このような問題を抱えるのは自分たちだけではないと思えますし、他の参加者から、情報、いやし、刺激、勇気もらうことができるかもしれません。できれば、親も、そこで仲間を作れるといいのです。他の参加者との違いよりも、共通点に目を向けることもポイントです。[7]
・患者会などは、家族が何をしゃべっても(他人へのアドバイスを除く)、大丈夫だと言う安心感を家族が体験できれば理想的です。本人にも、そのような非難もされずに、受け入れてくれる場があることが伝われば、さらにいいです。cf[13]p26 ステップ6:希望をあきらめない
親が焦ってはダメです。すぐに変化が出なくても、粘り強く。また、安易に医者や患者会をころころ変える人は、うまく行きにくいです。
ひたすら、できればガンとして、子どもの変化を信じます

5.参考

OCD:
[1] OCD研究会編「強迫性障害の研究(3)」星和書店(2002)p95-107
[2] 原田誠一編「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版(2006) p38
[3]J.S.マーチ、K.ミュール(著)、原井宏明、岡嶋美代(訳)「認知行動療法による子どもの強迫性障害治療プログラム」岩崎学術出版(邦訳2008)p270
[4]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士(片山奈緒美訳)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE
[5]リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」 晶文社
[15] Lisa Merlo,Ph.D,Lehmkuhl HD,Geffken GR, Storch EA, Decreased family accommodation associated with improved therapy outcome in pediatric obsessive-compulsive disorder.J Consult Clin Psychol.2009.Apr,77(2);335-60
アダルトチルドレン(共依存):
[6]斉藤学監修「知っていますか?アダルト・チルドレン一問一答」解放出版社(2002)
[16]信田さよ子「タフラブという快刀」梧桐書院(2009)
ひきこもり:
[7]中垣内正和 はじめてのひきこもり外来 専門医が示す回復への10ステップ ハート出版(2008)
著者は、新潟県 佐潟荘にてひきこもり外来を開設しています。
[8] 斎藤環 シリーズCureひきこもりはなぜ「治る」のか?精神分析アプローチ 中央法規(2007)

リンク

[9]原井宏明の情報公開>強迫性障害の治療>家族の方へ OCDニューズレター5夏2002 管理人の訳です。
[10]NPO法人全国ひきこもりKHJ親の会
[11]不登校情報センター
不登校情報センター > リンク集『多チャンネル』 > 不登校・引きこもり等の支援・相談に応じる全国の医療機関 
[12] NHK福祉ネットワーク ひきこもり情報
[13] 厚生労働省 「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(2010年)
こころの健康科学研究事業「10代20代を中心とした「ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン」(2000年)
[14]ひきこもり(引きこもり)のページ ひきこもりについてのリンク集