3 嫌な考えへのとらわれ

3-1)嫌な考えが頭から離れない症状

考えには、
自然に思い浮かんでしまうもの
と、
自分で意識して行っているもの

とに分けられ、誰にでも両方の考えがあります。

自然に思い浮かんでしまう考え(イメージ、雑念)は、自動思考と呼ぶこともありますが、
OCDの場合、自分の意思に反し、侵入的なので、侵入思考と呼びます。


嫌な考えにとらわれて、なかなかなくならない場合
嫌な感情が伴うため、それを何とか打ち消そうと、
侵入思考に対し、なんらかの反応した考え(頭の中で意識した考え・強迫行為)をしているはずです。

それを繰り返すことで、かえって症状が強化されるという悪循環になっているのです。

 侵入思考のしくみ

強迫観念
・・・ある考え(侵入思考)が繰り返し現れたり、意思に反して、なかなか消えない。

頭の中の反応:
1)打ち消し・・・思い浮かんだ侵入思考・嫌な感情をなくそうとする。あってはならないものと否定する。
2)想像・・・嫌なことが起きないか、あれこれ考える。
3)中和・・・思い浮かんだ侵入思考とは逆の「いい、きれいな、神聖な、縁起のいい」言葉、イメージをあえて思い浮かべる。
4)回避・・・避ける。逃げようとする。
5)先延ばし
6)確認


3-2)診断

嫌な考えにとらわれる症状があるからといって、OCDとは限りません。OCD以外にも、うつ病、PTSD(心的外傷ストレス障害)・適応障害などのトラウマ関連疾患、統合失調症など、多くの精神疾患で生じます。

病気によっては、思考の勢いが非常に強く、対処が困難なこともあるので、専門医・心理士に受診し、正しい診断を得たうえで、対処してください。


3-3)対処の元になる考え方

侵入思考・強迫観念は、自然に湧いてしまうものです。温泉が大量に沸いている所に、ふたをするようなもので、なくそうとして止まるものではありません。参考;補足>2.強迫症状への気づき>2-4)目標を絞る

例え話:
ある人が、恋人にふられました。
振った人は、私のことなど忘れてほしいと言います。
そして、もう直接会うことはありませんでした。
しかし、翌日「私のことを忘れてくださいね」と、元恋人からメールがありました。
次の日も、「私のことを思い出されるのも嫌なので、忘れてください」とメールが来ました。
そして、毎日のように「もう忘れましたか?」「早く忘れてください」などと、メールがきます。
これで、忘れられますか?

この種類の例えで有名なのが、白クマ効果の実験です。(ピンクのゾウとか色と動物をアレンジしている人もいます^^;)
「2分間、自由に考えていいのですが、白クマのことだけは考えないようにしてください。」とお願いします。すると、かえって白クマという言葉が頭によぎってしまうというものです。白クマという単語は、普段なら、思い浮かべることはない単語のはずなのにです。[1]

つまり、ある考えをなくそうと意識すると、かえって気になって、頭によぎりやすくなるのです。強迫観念を考えないようにするという発想自体、そもそも無理があることになります。


強迫思考のしくみ

強迫思考への認知行動療法では、右図の5つが、関係しあっていると考えられます。[2]その5つの要素のうち、自分でコントロールできるものはどれでしょう?

自分の意思で、直接はコントロールできないもの
強迫観念(侵入思考)、感情、感覚過敏
→コントロールをあきらめる。いじくらない。 コントロールできるものは→思い浮かぶ考えの解釈と強迫行為

つまり、このような考えはあってはならないという解釈が適切か?
このような打ち消そうとする行為を変えられないか?
が、対処できるポイントです。

3-4)記憶のしくみの利用

忘れたくない考え=大事な考え→自動的に何度も思い返している
忘れてしまう考え=大事ではない、どうでもいい考え→自然に放置され、忘れてしまう。

つまり、頭の中で嫌な考えが、ひんぱんに思い浮かぶのは、それに反応して、意識してその考えをいじくっているためです。

そのため、このしくみを利用すると、侵入思考・強迫観念も、相手にしないことで、嫌な考えがわくことも、自然に減っていきます。
=強迫観念は、いじくらない。温泉のお湯のように、頭の中に、流し放し、よぎるままに放置します。
⇒「またよぎっている」と気づくだけにします。


3-5)対処のポイント

認知行動療法では、その人の症状を観察して、ケースフォーミュレーション(行動分析)を行い、どの技法を用いればよいか考えていきますることもあります。

1)考えと、事実・真実とは同じとは限らない。
→混同していないか?区別する。
嫌な考えや感情は、苦痛であっても、自分の体内だけの問題で、それ以上に現実の被害があるわけではありません。プカプカ放置しても実害はないので、放っておきます。 ・宗教、道徳、性、犯罪など、自分の考え方が、一般の人々よりも強固で、無理があるる場合、それらへの考え方(認知)に働きかける技法があります。
ただし、患者さんや治療者によって、行われる方法は様々です。

2)野良犬の例え
野良犬は、目を合わせたり、犬に反応して逃げ出すと、かえって寄ってきます。
その場合と同じように、嫌な思考も恐れて逃げたり、いじったりすると、よけいこびりつきます。 嫌な考えは、野良犬と同じように、なるべく相手にせず、
無視して通り過ぎられると理想的です。

3)現状を受け入れる(アクセプタンス)
今の強迫観念がよぎる不快な状態をあるがまま受け入れ、しばらく共存することを目指します。


4)無重力の例え
宇宙船の中の無重力な空間に浮いている自分を想像してみてください。
YouTube 無重力 若田光一宇宙飛行士の動画) 

自由に動けません。地上のように動こうと、もがくと、かえって体が回ったりしてうまくいきません。
頭の中の考えも、無重力で浮いているもののように、整理が難しく、完璧に扱えなくて当たり前です。

無重力に逆らえないのと同じように、
頭の中の嫌な考えは、無重力の宇宙船内で浮いている物のように、元々、自由に扱えるものではありません。
頭の中でプカプカ漂わせて、そのままにおきます。

5)他のことへ注意を広げる
このようにして強迫観念があっても、他のことをしたり、他のことへ注意を広げます。
そのときに、強迫観念から逃げるという動機ではなく、自分から進んで、他のことするようにします。
あなたには、「今」そのとき、どうするかを選ぶことができる部分があるのです。

注意を向けることは、次のページを参考にしてください。
補足>マインドフルネス
これらの方法は、認知行動療法の技法のいくつかを応用したものです。

このようなトレーニングを重ねることで、徐々に強迫観念がよぎっても、それほど気にならなくなっていきます。しかし、それには、しばらく期間がかかります。強迫観念は、自分で減らそうとか意識するとかえって、なくなりません。何カ月もたった頃に、「昔ほど頭によぎらなくなった」と気づくような感じです。



参考

[1]スタンレイ・ラックマン著、監訳者作田勉「強迫観念の治療」世論時報社(2007)
[2]Aaron Beck MD, Gail Steketee Ph.D., Sabine Wilhelm Ph.D.[著] Cognitive Therapy for Obsessive-Compulsive Disorder: A Guide for Professionals, New Harbinger Publications, Inc; 1 edition (2006)